小作制度
近世における地主制形成の3つの型に対応して、小作制度は3つの形態に大別することができる。
第1は尼崎地方に一般的な地主が自作経営に必要以上の土地を口頭または文書による契約で農民に貸す普通小作で、小作人は慣習的に継続することが多いがしばしば変更することもある。また小作人が1人の地主とのみ契約することも、複数の地主と契約する場合もある。所有権の移転は売買によることが多いので地租改正にさいして所有権の所在は明確であった。
第2は質地小作である。質入れは本来請け戻しを前提としているが実際は困難なことが多く、長期にわたって質地関係がつづくなかで事実上質流れとなり、土地所有権が質取主に移り質入れ農民がそのまま小作人となる直小作の場合には、質取主が質入れ人から徴収する貸金の利子が小作料の相当することになる。質地請戻し権が潜在的に存在するために地租改正にさいして質取主・質入主のいずれを所有権者とするかについて紛争が生じたが、政府はおおむね質取主を所有権者として確定したにでそれまでやや不安定であった質地地主は安定的となった。質地関係は全国的に最も普遍的であって地主制形成の主流となったが、尼崎地方には一般的にみられない。
第3に新田小作で、たとえば尼崎南部の新城屋・初島両新田の畑砂慣行のように地床権(底土権)と上土権が重なって存在する場合、そのいずれが所有権者であるかについて紛議が生じたが、地租改正のなかで底土権者である商人などが地主と認められ、上土権者である農民は永小作権が認められたものの小作人とされた。1896年(明治29)の民法改正で永小作権の存続期間が50年間に限定されたので上土権の売買価格も低下し、その後地主と永小作権者との紛争が続いたが新田地帯が工場地となったのちこの型の小作制度は消滅した。